白いリボン
2011, 01. 21 (Fri) 09:42
第一次世界大戦前、ドイツ北部の小さな田舎町。
地主である男爵が支配するこの町で、不可解な事故が次々と襲い掛かる。
プロテスタントの教えを信じる村人たちは疑心暗鬼に陥り、子どもたちは苦悩を感じ始めていた。
ドイツの田舎町を舞台に、人間の心の闇を痛烈に描き出すミステリー・ドラマ。
2009年のカンヌ国際映画祭ではみごと最高賞のパルム・ドールを受賞。
2010年 12/4公開 ドイツ/オーストリア/フランス/イタリア映画
監督 ミヒャエル・ハネケ
ハネケ作品はそんなに観ていないのですが、「ファニーゲーム」なんかは、もういい加減にやめてくれ…と、胸糞が悪くなるほど後味が悪かったけど、こちらの作品がカンヌでパルム・ドールを受賞とあらば、恐る恐るですが楽しみにしていました。
結論から言えば、ハネケ独自の超ドS級な不快場面もなく、凄く良かったです。
後からあれこれと思い返し、じわりじわりと染み込んでくるような余韻のある作品でした。
大人も子供も登場人物がかなり多く、男爵(ウルリッヒ・トゥクール)、牧師(ブルクハルト・クラウスナー)、医者、助産婦、家令など、家族構成が分かりにくかったのもあるので、すぐにとは思わないけど、また観てみたい作品です。
静かな田舎を舞台に、一人の教師を語り部とした回想で進み、モノクロ画像が美しくもあり怯えでもあるかのように淡々と流れ、村を包み込む空気や村人の感情が重苦るしく伝わってきました。

ある日、村のドクターが自宅前で落馬。
骨折して入院するが、木の間に針金が張られていたのが原因らしい。
納屋の床が抜けて小作人の妻が命を落とし、男爵の息子が暴行を受け、平穏だった村に次々と事件が起こる。
帰宅が遅れた娘と息子に、牧師である厳格な父は、無垢で純白を意味する白いリボンを付けるよう命じる。
大人からは躾であっても、子供に取っては抑圧と服従の印のようなもの。
親から叱られただけでなく、他人の前でさらし者にもなってしまう。
物語は犯人を明白にして事件解決を求めるような内容ではありません。
けれど観客は、犯人が誰であるか理解できると思います。
そして、なんと恐ろしい犯人(たち)だ、と言うような捉え方をさせません。
ここにあるのは、支配、偽り、嫉妬、裏切りや不信であり、これだけ多くの登場人物の中、誰か一人だけを突起させず、それぞれの胸に秘める悪意や反抗と言ったものが、全体像として非常に不気味に描かれているのです。
理不尽な躾、性的虐待、抑圧される封建的な日常が積み重なる環境で、人間の中には何が芽生え、どんな人格が形成されるのか。
潔癖なまでに善を求めると、何に結びついていくのか…。

サラエボで大公が暗殺された事件が村に伝わり、第一次大戦へと進んで行くのが分かります。
倫理だの秩序だのを重んじながら、利己主義で醜い権力者。
表向きは素直に振る舞いながら、冷淡に大人を見ている表面的な子供。
無音のエンドロールを観ながら、純粋で無垢である証の白いリボンは、やがて赤いナチの腕章へと変わっていったのだろうか、と。
眼を覆いたくなるような暴力描写は全くなかったけれど、白いリボンに植えつけられたであろう暴力性が、負の歴史に繋がったのかもしれないと思うと眼を覆いたくなりました。
教師と男爵家の乳母の純愛が、異様な空気の中で浮いたようでもあり、一服の清涼剤のようであり、また事件の真相に近づくけど有耶無耶で済ませてしまう辺りが、あたかも普通の人間であることを最後まで強調したようでした。
多分、私達は彼と同じ目線でこの作品を見届けることになるのでしょう。
コメント
KLY
確かに目に見えた暴力はないんですよね。
ただ長いスパンでみると、このこども達が戦争の狂気を演出し、一個人の暴力をはるかに超えた暴力をふるうきっかけを作るのだと考えると空恐ろしかったです。
しかし…過ぎたるは及ばざるが如しとはよく言ったもので、程ほどが良いんですよねぇ。
mig
こんばんは★
色々なシーンが興味深くて、また観たくなっちゃってまだ行けてませんの。
躾、教育。がんじがらめにしていたって良い事ないですね、
むしろある程度自由の方が、伸び伸び育っていいとおもう。
自分がもし子育てするとしたら怖いけど縛り過ぎも構わな過ぎもよくないなと肝に命じてます 笑
オリーブリー
KLY さんへ
こんばんは。
>長いスパンでみると、このこども達が戦争の狂気を演出し
そうなんですよね。
ダイレクトに描く作品はあっても、こういう形はお見事ですね。
最初に、第一次大戦前とか、何かテロップ等ありました?
最後になって、「ああ、そういうことか…」と思ったので、何だか背筋がゾッとしまして(;^_^A アセアセ・・・
そんなこともあり、また是非ゆっくりと観たいです。
>程ほどが良いんですよねぇ。
ほんと、そうですよ。
期待も理想も、相手からはただの押し付けになるだけですもん。
オリーブリー
migさんへ
こんばんは。
経験上、一人目は何もかも初めてだから、頑張りすぎて失敗もあるんだけど、二人目は案外、適当でした…(;^_^A アセアセ・・・
持って生まれた性格はあるけど、やはり育て方と環境よね。
大らかが一番だと思わない?(笑)
migサンなら大丈夫よ!
これ、確かめながら注意深く観たいです〜劇場は無理なので、早くDVDかな(*^-゚)vィェィ♪
リバー
TB ありがとうございます
スッキリせず 難解ではありますが
引き込まれる作品 ゾクゾクとした不気味さがあった
作品としてレベルが高いなぁと
オリーブリー
リバーさんへ
おはようございます。
モノクロ画像が不気味でした。
何がどう解決するわけではないけど、先に何が起こるか史実で分かっているので、ゾーッとしますね。
sakurai
やっと
最後になって、「あぁ、そういう時代だったのね」と得心しました。
最後までわかんなかったと思う。
といっても1月にごらんになったんですもんね。
こっちにくるまで数ヶ月!フィルムの少なさがまじまじとわかります。
最近とみに年取ってきたせいか、もやもやのもんもんのどよよーーんというのを見るのが辛くなってきました。
見ごたえあったんですが、単純なものを求めるようになってます。
見すぎが原因かしらん。
オリーブリー
sakuraiさんへ
こんばんは。
抑圧する者、される者、モノクロ画像から、一層の重苦しさを感じました。
サスペンスのように進むストーリーも面白かったです。
最後は、そこと結びつくんだぁ~と納得でした。
まあ、このような作品は、年齢と言うより、気分や環境によって受け方が左右されるんじゃないですか?(笑)
仰る通り、見すぎって反省…
頭が空っぽになる期間って、大事なのかも(;^_^A アセアセ・・・
yukarin
こんにちは♪
モノクロの映像が重々しさを出してましたね。
長いけど少しずつ引き込まれていく作品でした。
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