カティンの森
2010, 03. 03 (Wed) 17:07

1939年、ポーランドはドイツ軍とソ連軍に侵攻され、ポーランド軍将校たちはソ連の捕虜となった。
アンジェイ大尉(アルトゥール・ジミエウスキー)の妻アンナ(マヤ・オスタシャースカ)と娘は、彼の帰りを待ち続ける…。
第二次世界大戦中の「カティンの森事件」を映画化。
長い間明らかにされてこなかった同事件の真相を描く。
犠牲者への鎮魂映画{★★★3/5}
1939年9月、西からドイツ、東からソ連の侵攻を受けたポーランド。
同盟国であったイギリスとフランスがドイツに宣戦布告し、ポーランド侵攻は第二次世界大戦に拡大。
ドイツとソ連に分割され占領されたポーランドで、ソ連の捕虜となった約1万5000人のポーランド将校が行方不明になり、1943年、カティンの森で遺体で見つかった。
独ソ戦の中、ソ連はドイツによる犯罪と主張。
カティンの森事件については
こちら
こちら
アンナは夫のアンジェイ大尉を探しドイツ側からソ連側へと入り、何とか再会を果たすが、アンジェイはソ連軍によって移送されて行きます。
アンナを中心に、帰りを待つ家族の心情を描きながら多くの悲劇が語られていきます。
オープニング、どちら側にも安泰があるわけではないけれど、橋の両端から逃げる人々が交差し、
紅白のポーランド国旗は二つに引き裂かれ、赤だけにされてしまう。
大学教授であるアンジェイの父は、強制的にナチに監禁され、ある大将夫人ルジャは、ドイツから事実を教えられプロパガンダに協力するよう求められます。
ソ連の捕虜として囚われたアンジェイは、出来る限り事実を手帳に記すことにします。

第二次世界大戦の虐殺がまだあったという事実とラストに見せられるむごいシーンは衝撃的でした。
加えて、ソ連の支配下に置かれたポーランドで、この虐殺の事実を公にすることはタブーであり、ソ連が事実を正式に認めたのが1990年になってからと言うことにも驚きと怒りを覚えました。
戦争映画を観るといつも思うことは同じですが、
これほど悲惨な出来事なのに真実を語ることを許されなかった国民感情や犠牲者に対して、より一層の虚しさを感じずにはいられませんでした。
私達はみな同じ人間なのにどうして……
大国に囲まれているポーランドが、常に他国からの侵略を受け続けてきた歴史の宿命なのでしょうか。
哀れみも戸惑いもなく次々と機械的に行われていく衝撃的な映像が終ると、無音で流れるエンドロールは黙祷だと感じました。
アンジェイ・ワイダ監督の父親が虐殺の被害者の一人であったそうで、
このような事実を世界に知らしめた意味でとても意義のある作品だと思います。
ただ、戦争映画としては登場人物の関連性や必要性が少し分かりづらくて、信じて待ち続ける家族の苦悩など伝わりにくかったです。
アンナを匿った将校やアンナの甥のエピソードなど、サクサクと進んでいくので、それぞれの人に感情移入をする暇がなく、ルジャ夫人の元家政婦が市長夫人になったとか、その経緯なども推測するしかないエピソードが多かったように思います。
なのでこの映画はドラマ構成などで人々に感銘を与える目的ではなく、偏に知られざる“カティンの森事件”の真実を描き上げたかった監督の執念のような作品だと感じました。
ドキュメンタリーの側面で観た方が良いかも知れませんが、またひとつ戦争の史実に向き合わされる深い作品でありました。
2009年 12/5公開 ポーランド映画
監督 アンジェイ・ワイダ
コメント
ysheart
こんばんは!
オリーブリーさん、
ちゃんとこの映画ご覧になったんですね!(←ちゃんと、って… 笑)
新しい月に入ったので。でも、さすがです!
僕も先月ですが、観ました。
ラストは、これを超える所業はなかろうと思えるような凄惨さでしたね。
あの駅、あの森周辺を絶対通りたくないとか思いました。
酷い歴史を作ったものです、旧ソ連の人々は。
でも、映画にされたことは本当に意義深いですね。
>登場人物の関連性や必要性が少し分かりづらくて
たしかにそうでした。え、あの時の女の人が、この人?とか迷う場面がいくつかありました。あとで、パンフレットを読んで頭を整理しました(笑)
めえめえ
私は未見なのですが、
先日来日していたゴルバチョフのことを調べていたら、
この人が大統領の時、この事件のことを認めたそうですね。
ワイダ監督の「地下水道」もそうですが、
ポーランドの人たちはドイツとソ連の狭間になって本当に可哀想。
第三者とはいえ、怒りがこみ上げてきますね。
KLY
こんばんは^^
思うのですが、日本人にとって原爆投下が特別なものであるのと同様に、
カティンの森事件もポーランド人にとっては特別なものなのかもしれないですね。
で、本当のところでことの本質を理解するには、その国々の文化や歴史的な背景
を理解していなくてはならないのかなと。
ただ、この作品がなければ全く知る機会もなかったことを考えれば、小さな一歩だ
けれど前進かな。何か機会があるに付けこんな事件があったんだったなと思いだ
すことが、重要なのだろうと思います。
ワイダ監督が世界中の人々に訴えたかったことが理解できるとまでは言いません。
ですが、彼の撒いたタネは私の心にしっかり植え付けられたと思っています。
オリーブリー
ysheartさんへ
はい、ちゃんと観てました(爆)
先月、「ずっとあなたを〜」とハシゴしたんですが、
サンドラの「しあわせの〜」がとても心地よくてスラスラ感想が書けたので、こちらが後になっちゃいました(苦笑)
ysheartさんもご覧になってたのですね〜さすがのチョイスです!
>映画にされたことは本当に意義深いですね。
その通りだと思います。
まさにワイダ監督の入魂の一作だと感じましたから。
事件が風化されたりしないようにも残すべき作品だったのでしょうね。
己の恥じの歴史から目を背けず受け止めなくてはならないのだと私達に教えてくれてるような…。
女性が多かったのと、子供が成長するので、これ誰?ってなりましたけど。(汗)
ysheartさんも鼻炎などお大事にして下さいね〜。
季節の変わり目の体調は複雑ですから(笑)
オリーブリー
めえめえさんへ
こんばんは〜いつもありがとです♪( *^-゚)/⌒☆゙
劇場に貼ってあった切抜きなど読んでみたら、スターリンの孫かな?名誉毀損とかで訴えるとかあったよう…。
ワイダ監督はポーランドの人たちが置かれたメッセージ性の強い作風なので、これもそう感じずにはいられませんが、戦争と言うのはどこの国であっても大切な人を失う悲しみや怒りは同じものですよね。
オリーブリー
KLYさんへ
こんばんは。
>本当のところでことの本質を理解するには、その国々の文化や歴史的な背景 を理解していなくてはならないのかなと。
欧州の歴史は何処の国も難しくて(汗)
私なんぞ、世界史が苦手なので、今更ながら映画で知ることの多さに有り難いやら情けないやらです(;^_^A アセアセ・・・
そんな私のような方にも少しでも知る機会になるなら、それでこの映画の目的に貢献(?)は出来るのかなぁ〜なんてそんな事も感じながら受け止めてました。
sakurai
またまたとっても遅い反応で
息子らと、少々旅に行ってまいりまして、またまた遅い反応でした。
ポーランドって言う国は、昔からいじめられっ子というか、とにかく何かと両側から軋轢を受けてきた国なんですよね。
アメリカ移民にポーランド系が多いのも、祖国にいられなかったのか・・というのの象徴だと思います。
イーストウッドが、ポーランド系の役を良くやりますね。
結構淡々とした作りでしたが、一層ワイダ監督の思いが伝わってきました。
見た甲斐のある映画でしたわ。
オリーブリー
sakuraiさんへ
こんばんは〜こちらこそ反応が遅くなりました(;^_^A アセアセ・・・
入学と引越しで気忙しかったので、お返事が遅れてすみません。ペコリ(o_ _)o))
息子さんと楽しい旅行ができましたか?
良い思い出になりますね♪
sakuraiさんの記事がとても分かりやすくて助かりました。
小国の悲劇とでも言うのでしょうか、常に侵略されてきた民族の運命が言葉にならない映画でした。
ドキュメンタリーだったら重過ぎでしょうね(汗)
そうだ〜米にはポーランド系移民が多いようですね。
イーストウッド「グラン・トリノ」もポーランド系アメリカ人の役でしたね(確か…)
たいむ
こんにちはー
私は、感情移入しすぎることなく
淡々と最後まで見られて助かりました。
ドキュメンタリーでみるのはちょっとキツイすぎ。
先日NHKで「アフリカンドリーム」という特集をやっていて、
ルワンダの再生にスポットが当てられていました。
歴史が浅いこともあって、いまだ生々しく
希望とか可能性を見てもきつかったです。
過去の黒い事実を知るための映画はまだしも
現在とか近年で新しく発覚する事実が、
近未来で映画にならないことを祈りたいですね。
オリーブリー
たいむさんへ
こんばんは。
今日のニュースでポーランド大統領の事故に驚きました。
カティンの森へ行く途中だったそうで…。
ご冥福を祈ります。
この映画はドキュメンタリーだと相当キツイと思いますよね。
物語としたら想像していたのと違い、淡々としていたので私もそんな感じで観れました。
歴史の真実を暴く貴重な作品はこれからも続くとしたら、やはり人間は根本的に非道な生き物と言うことなのでしょうか。
miyu
そうですね
映画としてはちょっと断片的と言うか、
つぎはぎのエピソードではあるのですが、
その分ドラマ、ドラマしてないと言うか、
なんかもの凄くリアルに戦争の悲劇を
感じる映画ではあったかな?って思いました。
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