砂と霧の家
2007, 12. 20 (Thu) 18:36

サンフランシスコの海岸近くの一軒家。
夫に去られたキャシー(ジェニファー・コネリー)は、亡父から譲り受けたこの家で失意の中で暮らしていた。
所得税を滞納したため、郡によって家は差し押さえられ競売にかけられることになる。
ベラーニ(ベン・キングスレー)は、イラン革命で祖国を追われ、アメリカに亡命した元大佐。
妻と息子のため、プライドを捨て肉体労働や夜のコンビニで働いている。
競売に出されたキャシーの家は、かつて所有していた別荘と似ていた。
格安で手に入れたベラーニは、家族と越してくる。
ところが後で差し押さえは行政の手違いであると判明し、
返還するように求めるキャシーと、正当な手続きで手に入れたと主張するベラーニは対立する。

一軒の“家”を巡って、本当に大切なものは何なのか…が問われます。
結局、誰も救われない切ない話しですが、家族や人の繋がりを考えさせられる作品でした。
キャシーとべラーニ、双方のそれぞれの家、家族への執着が、ボタンの掛け違いのように徐々にこじれ取り返しのつかない事になってしまいます。
キャシーは、夫に捨てられて精神的にショックを受け、収入もなく、以前にアルコール依存症であったかと思われます。
辛い心情はある程度は理解できたとしても、
自堕落な生活を送った結果、ささいな税金滞納で家を差し押さえられ、競売に掛けられてしまう…
べラーニのセリフにもありましたが、一連の流れは彼女の自業自得なんです!!
玄関前に未開封のまま散らかされた郵便物…
弁護士に確認書を開封してないのか?と問われますが、無収入なので納税の義務は無いといくら訴えても大切な書類すら放置してるような状態で、そんな事が今更通用するのか?と。
彼女が母親や兄に自分の精神状態や家を競売に掛けられた事実を言い出せない理由も解かり難い(母親と何か確執があるのかと想像)
とにかく2週間後に母親が訪ねてくるまでには、何とか家を取り戻したいと必死。

ベラーニはアメリカへの亡命後、前職のつてなどで、ボーイング社に勤めていたらしいが、
そのポストも国交(?)の問題などで失ったらしい。
豪華に娘の結婚式を挙げている彼は、一見お金持ちに見えますが、
(多分)家族に内緒で昼は肉体労働、夜はコンビニで働き、貯金の残高を計算しています。
妻と息子と高級なマンション(ホテル?)で暮らし、
祖国での裕福な暮らし同様、家族の為に生活レベルを落とさないよう、購入した家を買値の4倍で転売してお金を得たいと考えています。
労働を終えると荷物は車のトランクへ…公衆トイレで体を荒い高級なスーツに着替え帰宅。
夜のコンビニではスニッカーズを食べ、出納帳に金額を書き込みます。
高価な家具や調度品に囲まれてますが、現状はかなり切羽詰っているのでしょう…
過去の栄光にしがみついているのかもしれないけど、
地位のある立場から急変した事を受け入れ、息子の学費なども含め、元大佐としてのプライドを捨てて頑張る一家の長として堅実で責任のある人です。
でもその分、家長としての威厳を保つため、やせ我慢もしてるのだろうし、
地位も名誉も捨てきれず利己的な人でもあると思いました。
ベラーニの働く姿がきっちりと描かれる反面、
キャシーはろくに働こうともせず、ただ当てもなく困惑の中でフラフラとしてるだけ。
ベラーニもキャシーも“家”に対する正当性は五分五分としても、私はベラーニの味方をせずにはいられませんでした。

おまけにキャシーに同情した保安官レスター(ロン・エルダード)は、家を取り戻してやると慰めの言葉をかけます。
同情が愛情へと変化したレスターは、キャシーと関係したことをきっかけに、冷え切った妻と離婚の決心を固めます。
そしてキャシー同様ベラーニに敵意を持ち、状況を厄介なものにしていくことになります。
決して悪人ではないのだろうけど、子供が泣きながら「パパ、帰ってきて」と訴えても、
家族を捨てて知り合ったばかりの女に走り、彼女の為と後先もろくに考えず、その場の感情で行動し空回りして他人に迷惑をかけるそんな男。
これが、腹が立つ!!
ベラーニは息子に言います。
銃を突きつけて脅し大声で騒ぐレスターは、小心者であると。
「われわれは、静かな勇者になろう」
結局、郡はミスを認めお金は払い戻すと言いますが、ベラーニは4倍の値段じゃないと明け渡さないと言います。
キャシーから見れば、彼らは裕福な移民で、自分の家を奪い転売して金儲けを企んでいるとしか思えない。
でもベラーニにも、もうそんな余裕はないようです。
…郡のシステムが1番悪いんだけど…(苦笑)
そして、キャシーは、
レスターが妻と話し合うために家へ帰り、数時間の孤独にさえ耐えられなくて自暴自棄なり、
ベラーニの庭先で拳銃自殺をしようとします。
気付いたベラーニが助け、妻子が優しく慰めようとしても、今度は風呂場で睡眠薬を飲んでしまう。
全く、甘えたで人迷惑な女!!!

ベラーニの妻ナディ(ショーレ・アグダシュルー)は、ジプシーのような生活は嫌だと訴えますが、夫を心から信頼しています。
文句を言いに来て庭で怪我をしたキャシーの手当てをし、優しくもてなす姿からその人柄が感じられます。
キャシーの言い分では、父親が苦労して30年かけてローンを返した家なのに、わずか8ヶ月で失ってしまったと。
そんなに大事なら最初からちゃんとすればっ?!働きもしないで、ジタバタしてるだけのくせに!
もともと精神不安定で弱いんでしょうね~依存症経験があるから、やっぱりその病気は繰り返されて…
ベラーニは「彼女は傷ついた鳥。家に迷い込んだ鳥は天使で神の使い」と言い、
キャシーに家を返還しようと決心した矢先、悲劇が始まる…
二人とも本当に大切なものが何かと気付いた時、取り返しがつかないことになっていた。
やりきれない辛い話なんですが、訴えてるものは明白に感じるし、
怠慢、堕落、欲望、誤解、差別、偏見、依存、銃など、アメリカが抱えている嫌な問題が詰まってます。
最悪な状況にならないと気付かないことはあるけれど、それにしても…

ベン・キングズレー、元軍人なんてピッタリ嵌ってたし、神に祈りを請うシーンは感動。
ジェニファー・コネリーも自堕落で八方塞がりの演技は流石でした。
アンタのせいじゃないの?と言いたくなるほどイライラさせられたし(苦笑)
妻役のショーレ・アグダシュルーも良かったです。
苦労知らずの奥様なんでしょうが、心が優しくて軍人の妻であるだけに覚悟も見えました。
この前観た「マリア」に出てました。

父の残した財産を守ろうとするキャシー(と、書いたけど…本当は、母親に対して自分が安泰で幸せだと思わせたいだけなのでは…その為にはあの家に住んでる自分でなくてはならないのだから)
人生を取り戻すため、家を固持したかったベラーニ。
キャシーとの出会いをきっかけに、家族を捨てたレスター。
ほんの小さな掛け違いが大きなことになってしまう…
そうなる前に、
お互い違う立場や環境の人間同士が関わるために、
互いのそれを知ろうとする努力…
大切なのです。
砂はベラーニ、霧はキャシーを現していたのかなぁ~
2004年 11/6公開 アメリカ映画
監督 ヴァディム・パールマン
コメント
ロク
あっ!
この作品観てないんだけど
この奥さん役の人、ショーレ・アグダシュルー(難しい名前)
あれ?さっき見たよ!!
そう、今観てる 『24 ?』のテロ犯の妻役で出てます
特徴のあるギョロ目でわかったよ(笑)
これ、面白そうだから借りて来るね
長〜い休みだからDVDいっぱい観るぞ〜
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- 『失って、初めて気付いた。求めていたのは、家(ハウス)ではなく家庭(ホーム)だったと…。』 コチラの「砂と霧の家」は、こっちゃんとmさんのご紹介で観ちゃいました(´-ω-`)オモイネー お2人の感想にもあるように実に重い映画です。確かにあまりに悲劇的で
- 2007.12.21 (Fri) 21:38 | ☆彡映画鑑賞日記☆彡
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- 2007.12.22 (Sat) 08:46 | UkiUkiれいんぼーデイ