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ダウト ~あるカトリック学校で~ 

2009, 03. 10 (Tue) 23:28


1964年、ニューヨークのブロンクス。
カトリック教会学校の校長であるシスター・アロイシス(メリル・ストリープ)は、生徒に恐れらる存在であり、自らにも厳しく厳格な人物。
ある日、人望あるフリン神父(フィリップ・シーモア・ホフマン)が、黒人男子生徒に特別な感情を持っているのではないかと疑念を抱く。

トニー賞とピューリッツアー賞を同時受賞した舞台劇を、原作者のジョン・パトリック・シャンレー自身が映画化。
イラク戦争から影響を受け原作を書き上げた。
オスカー俳優のメリル・ストリープとフィリップ・シーモア・ホフマンの気迫る演技がぶつかり合う心理ドラマ。
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今年のアカデミー賞で作品のノミネートはなかったものの、
出演俳優さんたちが4人も候補になっただけあって、それぞれのキャラクターの性質がきっちりと読み取れ、
この方たちありきの映画だったと思いました。
やはりメリルとシーモアのガチンコ対決は強烈で見応え満点!!

ケネディ大統領暗殺や公民権運動の拡大など激動の時を迎えたアメリカで、カトリック教会にも確実に変革の波は押し寄せてきている。
フリン神父は、俗世との関わりを柔軟に容認するが、厳しい戒律で生きてきたシスター・アロイシスに取って変革などありえない。

この映画は終わり方を観ても、真実を暴いたり謎解きをするのものではありません。
証拠がないのに、何故そこまで確たるものを持って疑ってしまうのだろう…
逆に証拠がないからこそ抱いてしまう人間の深い部分の心理を突いていると思います。
これが一般人ではなく、聖職に身を置く立場であるのがまた意味深いものがありました。
すべてに白黒を付けたいシスター・アロイシスの正論、信念、生真面目さは、別の視点から傲慢そのものであり、自己の正義のために他人を傷つけてもいる。
それでも普通の人間として細かい配慮や優しさも持ち合わせている描き方と、
フレンドリーなフリン神父のどちらにも取れる曖昧な描かれ方はバランスが良い。
シスターと神父の階級差や、
静かに質素な食事をするシスター達と、お酒を飲み肉を食べ、冗談交じりで愉快に食事する神父達、
突然の暴風や切れる電球など小物使いにも効果があり、疑惑は真実であるかのように感じさせられる。
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新人教師のシスター・ジェイムズ(エイミー・アダムス)から、フリン神父の行動の相談を受けたシスター・アロイシスは、当然のように不審を抱きフリン神父を問い詰める。
全身真っ黒い修道女衣装で、白く面長の顔に眼鏡のアロイシスの冷淡な目が怖い。
古い価値観から逃れられない校長シスター・アロイシスは、ただ自分の経験による確信だけでフリン神父に疑惑を募らせ失脚させようと執念をたぎらす。
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フリン神父の説教にはどれも納得させられ、生徒たちからの信頼も厚い。
シスター・ジェイムズからの疑いは突き放すが、執拗なまでの追い詰めに辞表を提出することになる。
結局、“それ”についての証拠はないままですが、疑えば限りなく黒に近いと思われるところは多々みうけられるのですが…
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フリン神父の経緯と説明に納得したシスター・ジェイムズ。
彼女は人を疑うよりも信じることを望む。
それは素直で純粋な感情だが、逆に事なかれ主義で無責任な逃げを匂わすようにも思われた。
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シスター・アロイシスに呼び出されたドナルドの母ミラー(ヴィオラ・デイヴィス)
フリン牧師がドナルドに対し疑わしき行為に及んだ可能性があると告げるが、
例えそれが事実だとしても、あと数ヶ月で卒業だから息子を学校にいさせたいと望む。
シスター・アロイシスでなくても「何て母親なんだろう?」と思った瞬間、なるほど、そういうことなのか…と納得させられてしまう事実が。
父親からも社会からも息子を守りたいと願う母親の現実があった。
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何か問題が起これば、白黒付けたいのは当然ですが、殆どはあいまいで終わってしまう(納得してしまう)。
物事には常にグレー・ゾーンが存在し、不明瞭さは感じられる。
多分、人間そのものが本質的に曖昧な生き物だからなのだろう。
確証のない事件を信じてしまい、自分の勘だけで追求した結果、本当に疑惑を拭い去る事ができるものだろうか…
「疑わしきは、罰せず。」
信じることと疑うことの難しさを感じました。
ほとんど校長室で行われる会話劇は、役者の迫真の演技のぶつかり合い。
間の取り方から視線、距離感が絶妙に伝わり、それだけでも満足のいく映画でした。

2009年 3/7公開 アメリカ映画
監督 ジョン・パトリック・シャンリー