勇者たちの戦場
2008, 12. 04 (Thu) 21:13

イラク駐留中の軍医ウィル・マーシャル(サミュエル・L・ジャクソン)は、帰国の日が近いことを知らされる。
彼は若い兵士トミー(ブライアン・プレスリー)、ジョーダン(チャド・マイケル・マーレイ)
ヴァネッサ(ジェシカ・ビール)らと、人道支援物資を運ぶ任務に就く。
彼らの車が市街地に到着すると、いきなり攻撃され激しい戦闘に発展した。
イラクの戦場を体験し、心に深い傷を負ったアメリカ人兵士たちが、帰還後も日常生活への順応に苦慮する姿を描いたドラマ。

マーシャルや兵士たちは、帰国直前、現地の武装ゲリラに襲われる。
仲間は次々と撃ち殺され、ジャマール(カーティス・ジャクソン)は混乱の中、非武装の女性を射殺、
トミーは親友のジョーダンを目の前で射殺され、ヴァネッサは爆破で右手を失う。
市街地での突然の戦闘から生き残り、
アメリカへ帰国した彼らには、新たな困難が待ち受けていた。

イラク帰還兵に広くリサーチを行い、
実際に元兵士たちが体験したエピソードを基に制作されたそうです。
マーシャルは戦地の体験が脳裏に焼きつき、
「反戦」の姿勢を明確にする息子の反抗や、夫を心配し家族を守ってきたと言う妻とも距離感を隠せず、次第に家族はバラバラになる。
失った右腕に義手をつけたヴァネッサは、これまで当たり前だった事ができなくなり、
優しく接してくれる恋人にも素直になれず拒否してしまう。
その焦りと苛立ちは、次第に人間関係に影響を及ぼすようになっていく。
親友のジョーダンを助けることができなかった負い目を背負うトミーは、
以前の職場も失い、父親には厳しい言葉をつきつけられる。
黒人兵のジャマールは、セラピー治療に通うものの、素直に悩みを吐き出せない。
恋人には心変わりされイライラがつのるばかり。
家族や恋人たちに暖かく迎えられても、戦場で地獄を経験した帰還兵と、他人事のように平和に暮らしている民間人との間には越えられない壁がある。
辛い記憶を持って生きなければならない彼らには、毎日がイラ立って仕方がない。

映画館で偶然出逢ったバネッサとトミーが、戦友フーア(同志)と呼び合い、精神安定剤の話や「イラクにいる方が良かった」と語るシーンは、身内であろうが平和ボケの人たちには解かってもらえない大きなギャップを抱えている姿が痛々しい。
眠れないトミーは夜中に車を走らせ、気に入らない運転の車を追い詰めていく様子は、知らず知らずに戦場の兵士に戻ったようで、我に返った様子はとても説得力があり現実的だった。
そんなトミーの最終的な決断もまた現実的でした。
「告発のとき」でも、帰還兵士の10%ほどがいざ戻ってみると「イラク症候群」と呼ばれるPTSDになっているとあり、「イラクへ戻りたいと思う」とのセリフもありましたが、
この映画でも戦争のトラウマと言う新たな「戦場」は、アメリカ本土であると痛烈に感じます。

マーシャルは医師と言う立場上、気持ちを誰にも吐露できませんが、
父親と息子が「歴史を学べ」「新聞を読め」など対立したり、少しずつ立ち直りのキッカケをつかみ始め、
頑だったヴァネッサも、新たな1歩を踏み出します。
立ち直りのきっかけは、やはり家族への愛情であり、恋愛であり、戦死した友人や仲間を裏切れないという気持ちから。
ラストにナレーションされるトミーの言葉が、戦争を物語っていると思いました。

ジェシカ・ビールは、セクシー系なイメージがありましたが骨太な演技ができますね。
「NEXT -ネクスト- 」「幻影師アイゼンハイム」も上手だと思いましたが、これもとても良かったです。
ジョーダンの恋人役でクリスティーナ・リッチも少しですが登場。
でもこのような戦争映画、アメリカ人は見たがらないんでしょうか…
いつまでも兵士を駐留させるブッシュ大統領や政府関係者なんて、観ないんでしょうね(汗)
戦地の人間はこんなにも追い詰められ、罪の無い民間人も殺され、
自分たちが何をしたかとか、反省もなく幕引きなのかしら(苦笑)
2008年 1/5公開 アメリカ映画
監督 アーウィン・ウィンクラー