ダークナイト
2008, 08. 05 (Tue) 01:31

バットマン(クリスチャン・ベイル)は、ゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)と新しく赴任したハービー・デント地方検事(アーロン・エッカート)の協力のもと、ゴッサムシティで日々の犯罪に立ち向かっていた。
そんな中、白塗りの顔に裂けた口の“ジョーカー”と名乗る謎の犯罪者の台頭で、街は再び混乱と狂気に包まれていった…。
「バットマン ビギンズ」の続編。
最凶最悪の宿敵ジョーカーの登場で、再びバットマンが死闘を繰り広げるアクション大作。
監督は前作から続投のクリストファー・ノーラン。


先行上映で観てきました。
「バットマン ビギンズ」より更にダークな内容で、アメコミとは思えないような何か新しい領域に入っていった…そんな仕上がりになっていました。
ネタバレしています。
冒頭、ジョーカーの銀行強盗シーンは悪の連鎖を次々と起こし、観たこともない史上最強の破壊者であると見せ付けらます。
「犯罪こそが、最高のジョーク」
仲間を殺し、独り占めした大金も燃やしてしまう。
テロ行為を繰り返し、自分の残虐な性質が楽しくて仕方がない。
その裂けた口の経緯は「父親に虐待された」「妻の為に自ら切った」と相手によって言うことが変わる。
こんなルール無用の悪党の真相を知ったところでどうなるんだ、そんな事はどうでもよいから早く退治しなければと感じさせられるほど異様な生々しさがありました。

ティム・バートン版「バットマン」のジョーカーは、ギャングの子分だったジャックがボスに仕組まれた罠にはまり、バットマンに追い詰められ薬品タンクに落ちてしまったことから漂白されジョーカーを名乗る。
ブルースの両親を殺害したのも若きジョーカーだった…と、バットマンとの戦いに因縁というか必要性がありました。
演じたジャック・ニコルソンは犯罪をおちょくるようにどこか滑稽でコミカル。
市民を笑いの中で殺害する残虐さは怪演で今でも印象に残っています。

その頃とは時流も違うので比べようもないけれど、今回のヒース・ジョーカーは、犯罪者へと落ちた動機や過去は明かされず、指紋もDNA記録もない。
バットマンとのやり取りから、社会に疎外されて来たと想像はできるけど、目的は金でなくただ悪を楽しむだけ。
白塗りの顔はひび割れし、眼の周りの黒塗りは所々溶け落ち、口が裂けているため乾きやすく籠もりがちな発音と舌なめずりするような音。
深い傷跡はどんなに赤く塗ろうとも隠しきれない。
ニコルソンのようにきちんとした(笑)白塗りではないし、また彼のようにどこか紳士的な振る舞いも一切ない。
正体が明かされないだけに外見のリアルさと存在感は鳥肌が立つぐらい圧倒的でした。
ナース姿も眼に焼きついています(笑)

「光の騎士」の役割として登場するハービー・デント検事。
ブルースの幼なじみでかつての恋人レイチェル・ドーズ(マギー・ギレンホール)の新しい恋人で、犯罪の撲滅を誓う正義感の強い男性。
バットマンは彼を真のヒーローとしてゴッサムシティを託したいと考えていた。
ところがジョーカーは容赦なく落とし入れていく。
トゥーフェイスとなってしまったハーベイは、ダークサイドへと落ちてしまう…。
アーロン・エッカート演じるハービー・デント/トゥーフェイスは、ジョーカーに次いで重要な役割で、前半の熱血感あふれる颯爽とした振る舞いと後半の悲劇から悪へと落ちていく様子は、切なくてどんな人間にも潜む二面性を上手く演じていたと思います。
1995年「バットマン・フォーエヴァー」では、トューフェイスをトミー・リー・ジョーンズが演じました。

物語は人間の裏切りや破壊破滅など犠牲者も多く、二転三転しながら重く進んでいきます。
ハービーは大切な決め事をする時、コインを投げて裏表で決める習慣があり、ジョーカーは、ハービーorレイチェル、一般市民or囚人などゲーム感覚ながら緻密に二者選択をしかけてきます。
善と悪、表と裏、公と私…。
この二面性はどんな人間にも心の深い闇の中にあって、自分ならどうする…と問いかけられているようにも感じました。
特に市民を巻き込んでのフェリーのシーンは怖かったです。
多勢による人間心理は時に自分の意志とは違う方に向かうものだけど、この選択がどちらに進むのか…。
重い内容ながら救いも残し、ラスト、ゴードンと彼の息子くんの会話は次に繋がるだろう、決して悲しいだけではありません。

前作で「復讐は正義ではない」と学んだバットマンには、彼なりのルールがあり精神面でもより成長して責任感も強い印象がありました。
ジョーカーとの対決はどのシーンも手に汗握る展開でしたが、
ハービーの記者会見後に街中で繰り広げられるカーアクション、捕らえられたジョーカーが脱走するまであらゆるものが詰め込まれ見応えのある流れでした。
特に警察署でのシーンはお互いのエネルギーのぶつかり合いって感じで凄い迫力がありました。
バットマンは強くてもちろん素敵ですが、普段のブルースは可愛い(笑)
会議室で居眠りしたり、プレイボーイぶりも板についてバレエ団の公演まで中止しちゃうもん(笑)
美女侍らせてヘリで登場なんて、カッコいいわぁ~!
でもそう振舞う彼の本質が解っているから、ブルースである時も心休まる瞬間がないのは気の毒と感じます。
最後まで辛い立場の悩めるヒーローだったなあ~今回は彼も失うものが多かったと思う…しばし休息を。
チョット撫肩かもしれないけど(笑)
スーツ姿がとても素敵なクリスチャン・ベイルは、
正義を守るために必死で戦うけど、バットマンの存在は意義あるのかと自らを問う葛藤の部分が上手でした。

前作に引き続き登場のゴードン警部補。
バットマンの理解者である彼の活躍なくして成立しない見せ場はありますが、彼の正義である警察組織には問題があり、大切な家族にまで危機が及ぶ…。
ゲイリー・オールドマン、機転が利いていて刑事の中の刑事です。

ケイティに変わりヒロインのレイチェル・ドーズを演じたマギー・ギレンホール。
お顔はあまり好きではないしヒロイン顔でもないような気はするけど、大人で落ち着いた雰囲気はケイティからバトンタッチして良かったと思いました。
この作品で唯一の女性が二人の男性どちらにも惹かれ、クールに装いながらも微妙な気持ちの表現は上手だったし作風にも合っていたと思います。


執事アルフレッド(マイケル・ケイン)
エンタープライズの社長となった応用科学部長のルーシャス・フォック(モーガン・フリーマン)
2人のベテラン俳優の登場は存在感があり物語に深みが与えられます。
前作の悪、スケアクロウのキリアン・マーフィもチラっと登場!

ヒーロー映画の楽しみのひとつである戦闘アイテム。
バットスーツも改良され、前回、そのカッコ良さに驚いたバットモービルが更に進化(?)し、分離されてバットポットと呼ばれる一見バイクのような原型の乗り物は、状況に応じて自由自在!!
バットマンと一体化したように街中を疾走。
迫力あるアクションシーンでしたぁ~!!!
トレーラーの横転も病院の爆破も本当に撮影したとのことですが、いや~もう本当に凄かったですねぇ~~!!
ナース姿のジョーカーが淡々と破壊していく場面は、アンバランスさが逆に恐ろしかったです。
映像、人間の心理や内面と、終始リアルを感じ続けられた映画でした。

撮影終了直後の2008年1月に28歳の若さで急死したヒース・レジャー。
白塗りに裂けた赤い唇、緑の髪、紫の服装は、一見笑いを誘うようだけど、そのイカれ具合がシリアスに伝わって来て恐ろしくなる。
混沌とした狂気の中で次は何を仕掛けてくるのか…。
細身で長身のヒースは外見でもまさにジョーカーそのもので、いつもは心地よく感じる彼の独特な響きの低音がとても不気味で、高音の笑い声はそれ見た事かと言わんばかりのハイテンション。
ひとつひとつのセリフの言い回し、指先まで細かな動き、無言の後姿。
これまでも数々の作品で才能を披露してきたヒースは、このジョーカーに独自の息を吹き入れたのではないだろうか。
バットマン、ゴードン、ハーベイの立場は違うけれどそれぞれの正義を、こんなにも覆し混乱させ得体の知れない奇妙な行動でどんどん追い込んでいく。
その内面に秘めた強烈な性質は、ヒースがとことんのめり込んだ成果なんだろう。
信じられない悲しい出来事になってしまったけど、この演技を観ることが出来て誰もが満足してるのではないでしょうか。
だからこそ、残念で残念でならない気持ちでいっぱいですが、
ヒースに“ありがとう”の思いと、是非多くの人に観てもらいたい。
どうぞヒースを覚えていて、忘れないで…そう願わずにはいられませんでした。
2008年 8/9公開 アメリカ映画
監督 クリストファー・ノーラン