ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
2008, 05. 07 (Wed) 23:48

20世紀初頭のカリフォルニア。
鉱山労働者のダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)は、
まだ幼い息子H.W.(ディロン・フリーシャー)と石油採掘事業に乗り出した。
ある日ポール(ポール・ダノ)という青年から自分の故郷の土地に油田があるとの情報を得て、
西部の町リトル・ボストンへと向かう。
地下には石油が眠っていると確信したダニエルは、すぐさま土地の買い占めに乗り出す。
ポールの双子の兄弟で信頼を集めるカリスマ牧師イーライ(ポール・ダノ二役)は、ダニエルへの警戒を強めていく。
石油採掘によってアメリカン・ドリームをかなえた男の利権争いと血塗られた歴史を描いた社会派ドラマ。
「マイ・レフトフット」のオスカー俳優ダニエル・デイ=ルイスが、人間の計り知れない欲望や恐怖を演じる。
弟80回アカデミー賞主演男優賞オスカー受賞 ダニエル・デイ=ルイス 他、撮影賞受賞

そうか…
やはり、こんな演技じゃないとオスカー取れないのね…
特別大きな盛り上がりも展開も感じないのに2時間40分近い長さに飽きることなく観れたのは、
何と言ってダニエル・デイ=ルイスに尽きるのではないかと思いました。
冒頭、金採掘現場で黙々と作業をするダニエルにはセリフが一切無く、怪我をしても誰の助けも借りない頼らない(信じない)
石油採掘に一攫千金を目指す者達の中、
極端なまでに人間不信であると感じられる鉱山労働者のダニエルは、
運と勘を味方にし富と権力を手に入れていく。
地元でカリスマ的で怪しげな(?)な宗教を布教しているイーライとのぶつかり合い。
山師と牧師という、全く違う立場でありながら、どこか似たもの同士はいつしか宿敵のようになる。
この二人の確執が物語の核となって、
ダニエルが唯一愛する息子、尋ねてきた腹違いの弟との関わり…
何か大きな事を成し遂げたいとする人間は、その欲望も成功も破滅も全て持ち合わせているものなのかと、人間の裏側の闇が現れていると思いました。

「人の嘘の部分を一目で見抜いてしまう」猜疑心の強いダニエル。
(見るからに)実態のない嘘っぽい教えを神の名で説教するイーライ。
二人がここぞの重要な場面で絡むのは、どんな立場でも野心や金で動く俗物なのか。
ダニエルの人となりを描きながら、この牧師イーライの存在はある意味鏡のようで不気味でした。
私は初め、石油の情報を教えにきたポールと名乗った男が(やっと名乗ったと思うのですが)
結局、イーライだったのかと思ったので(双子とは気付かなかった…)
彼が夕食で父親に対して狂気に振舞った態度で二重人格者なのかと感じていました。
ラストで、実兄ポールに…の件があり、その設定は間違いのようでした!
(深読み~汗)
女性云々は一切なく、大事業の為に生きた男の物語かな。
この時代、仕事や成功以外には余計なものは何もいらないない…みたいな。
その為には、背負う物がたくさんあって、罪も犯し…
無宗教のダニエルが持つ野心と、宗教の元で隠れ蓑のような野心家の牧師。
誰にも共感できないし、内容も魅力あるお話ではありませんでしたが、
ドキュメンタリータッチで、俳優の演技に圧倒されて観れた映画でした。

オスカー受賞のダニエル・デイ・ルイスは、さすがの演技で素晴らしいですが、
個人的には「マイ・レフト・フット」「アメリカン・ギャングスター」の方が好きでした。
ポール・ダノ!
凄かったですね♪
彼は「テイキング・ライブス」で僅かだけどイーサン・ホークの青年期、サイコな怖さが印象深く、
「リトル・ミス・サンシャイン」でも変わり者だけど妹思いのお兄ちゃんを好演。
牧師なんて神聖であるはずなのに、境界線ギリギリ(超える)演技は彼の平凡な顔つきが更に恐怖でもありました。
音楽も効果的でした。
旋律ではなくて人間の鼓動や大地の響きみたいな効果音と言う感じでドキドキしました。
だからかエンドロールのバイオリンの協奏曲かな~とてもホッとすると言うか…
ラストのダニエルのセリフ「終わった」って感じがしました。
それぞれの場面でいくらでも良い方にと考えることはできますが、
女の私からは、せめてダニエルが本当に息子を愛していたと願いたい。
2008年 4/26日公開 アメリカ映画
監督 ポール・トーマス・アンダーソン