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つぐない 

2008, 04. 25 (Fri) 15:07



1935年、イングランドの政府官僚ジャック・タリスの屋敷。
小説家を夢見る13歳のブライオニー(シアーシャ・ローナン)は、
夏の休暇で帰省する兄と友人を自作の劇で歓待しようと準備に追われていた。
大学卒業後、鬱屈した日々を過ごす姉セシーリア(キーラ・ナイトレイ)と、
使用人の息子ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)のある出来事を目撃したブライオニーは、
些細な行き違いと嫉妬心から姉とロビーの関係を誤解してしまう。

タリス家に預けられていた従姉妹ローラが敷地内で強姦されるという事件が起きる。
現場に居合わせたブライオニーは、ロビーが犯人だと告発。
彼は警察に連行されていった。

イアン・マキューアンの「贖罪」を、「プライドと偏見」のジョー・ライト監督が映画化。
少女の過ちによって引き裂かれてしまった男女の運命と、自らの罪をあがなおうと決意した少女の贖罪の人生が描かれる。
弟80回アカデミー賞作曲賞を受賞。
作品賞、シアーシャ・ローナンの助演女優賞を始め、7部門でノミネートされた。
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夏のある日、タリス家の屋敷で起こった出来事は、多感で想像力のある少女がまだ大人を理解できずに戸惑うのは当然のことでしょう。
噴水前と図書室の場面は、まずブライオニーの眼から描かれ、
次にセシーリアとロビーが実際どうだったのか…と観せられます。
このほんのちょっとだけ過去に戻るのは、時間軸を行ったり来たりと混乱するのではなく、
自分が少し前、何をしてた?と思い返すぐらいのもの。
この観せ方とタイプライターを打つ音が、これからどうなるのだろう?と気持ちに高ぶりを与えられ効果的。
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同じ大学に通っていてもセシーリアはロビーに話しかけず避けていた。
お互いの立場から、いつしか垣根を作っていたのでしょうか…
それがある出来事から一気に崩れてしまうのは、惹かれあっていた二人なら当然の事。
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広い屋敷の廊下の曲がり角を、ほぼ直角できちんきちんと曲がり、敷地内の森を駆け抜けるブライオニーは、彼女の性格と思春期の少女の心情が上手く表現されている。
多感で微妙な時期、しかもほのかな初恋をロビーに抱いていたので、偶然に目撃した二人を理解出来ず、
預かった手紙の内容にもどれだけの衝撃を受けたか…これも当然の事。
敷地内で起きた従姉妹の事件で拍車がかかったかのように、ブライオニーは取り返しのつかない嘘をついてしまう。
ロビーの無実を信ずる母親(ブレンダ・ブレシン)が警察の車の前に立ちはだかり、
「嘘つき」と何度も叫ぶ声を聞くブライオニーは、その時既に自分の過ちに気づいていたのでしょう。
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4年後。
投獄生活を続けるか兵士として前線に行くかを選択させられたロビーは、
第二次世界大戦のフランスへと向かう。
看護婦となったセシーリアは、家族、特にブライオニーとは絶縁状態。
再会したセシーリアとロビーのひと時の時間。
「必ず私の元へ戻ってきて」
その言葉だけを信じロビーは戦場へ…
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つぐないのため少しでも誰かの役に立つのならとブライオニー(ロモーラ・ガライ)も看護婦になり、
看護したフランス兵士、従姉妹ローラの結婚、そしてセシーリアとの再会で謝罪をします。

1999年。
77歳のブライオニー(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)は作家として成功を収め、
最後の作品「つぐない」についてのインタビューを受ける。
ここで始めて明かされた真実…
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脚本が解りやすく“観せる”演出が見事だと思いました。
綺麗な映像と音楽に始まりから引き込まれますが、
特徴は同じ場面を異なる人物の視点で描いていること。
別の側面から観せられることで、緊張感とその場面がどれだけ重要であるのか印象つけられます。
ラストのブライオニーの告白で、
なるほど~そういうことだったのか、と展開の納得はできます。
多少の中だるみがあるかもしれませんが、かなり秀作な文学作品だと思いました。

こちらは公開最初のレディース・デーであいにくの雨模様でしたが、小さな劇場は満員でした。
これから随時公開されるようなので、お近くで鑑賞可能でしたら是非観てくださいね。

多少ネタバレあり。


タイトルの「つぐない」から少し疑問は残りました。

セシーリアとロビーは身分の違いがあり、戦争の時代背景もあります。
ブライオニーの嘘は事の発端には間違いありませんが、
二人が添えなかったのは運命としかいいようがないとも感じました。

ブライオニーはちょうど少女と大人の狭間であり(だからと言って劇中にもありますが、許される嘘ではありません)それが単なる嘘なのか、錯覚なのか、思い込みなのか…
それすらも自分で解らなかったのではないかと。
聡明ではあるけど作家志望である彼女の感性は謎も多くてロビーに恋心もある。
事の重大さに気づいた時には、なす術もなかったのだろうと。
この出来事だけで「つぐなう」と言うテーマを描くには、伝わる印象としては少し違うものでした。

老いたブライオニーは肉体的に避けられないものが近づき、記憶が有るうちに自伝的小説「つぐない」を完成させます。
彼女が長い人生をどう送ってきたのかは殆ど描かれてません。
姓が変わっていなかったので、独身であったのは想像できますし、
演じた三人の女優の髪型が全く変わらない事から、ブライオニーが開放的な女性ではなくある種の自分の拘り、スタイルを維持していく性格の持ち主かと思いました。
だから「つぐなう」姿勢もずっと変わらず持ち続けていたのも想像出来ます。
罪悪感から解放されたり懺悔の意味での出版ではなく、自らの過ちを永遠に残すこと。
自分で自分を罰し、二人の愛を綴るのことが彼女の「つぐない」であったのだろう、そう思ってあげたいと感じました。

あと、従姉妹の事件ですが、
あれ、ちょっと真相を知りたいです(強姦?和姦?)

セシーリアとロビーの恋は切なく悲しいものでした。
やっと愛を確かめた途端、こんな事に巻き込まれ階級社会と戦争という時代にものみこまれてしまう。
家族にも背を向けいつか再会が叶うと信じ、ただ耐えるしかなかった二人。
どうぞロビーが無事に帰還して、二人に新たな幸せをと願わずにはいられません。
明かされたラストには、涙がにじみました。
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キーラ演じるセシーリアが主役のような印象を持ちますが、実際はブライオニーの物語です。
シアーシャ・ローナンは細かい感情表現を全身で演じ、眼でものを言う…そんな感じを受けました。
準主役はロビーかな。
状況で変化していく憂いのある表情と、心の温かいロビーがブライオニーの過ちを怒り責めるマカヴォイさんの演技。
やはり、この人上手だわ!!
上流階級の勝気な令嬢役は、今やキーラの為にあるのでは?と思うくらい嵌ってる。
ただ、あの細さゆえ、、、
体の線が出る薄い衣装はどれも素敵だけど、背中は出せど胸は出せない(出ない?)薄っぺらな体系には苦笑い。
白い水着と帽子で板の上に寝そべる場面が映し出された時、
板と一体化していて動き出すまで解らなかった。
お顔は美人で表情もセクシーだけど、何と言うか、女性らしい肉厚が感じられないと言うか、、、
マカヴォイとのラブシーンはイマイチ。
それと相変わらずの早口。
悪いわけではないけど演技はワンパターンだと思うので、シアーシャ・ローナンに完璧喰われてたような…

他二人のブライオニー役。
ロモーラ・ガライは数年後のシアーシャに違和感もなく上手でした。
色々出演されてるようですが「ダンシング・ハバナ」しか記憶にありません。
ヴァネッサ・レッドグレーヴはわずかな登場シーンでも存在感があります。

何を持って“つぐなう”のか…
何を持って“つぐなう”って欲しいのか…
答えは出ませんが考えさせられ余韻の残る作品でした。

2008年 4/12公開 イギリス映画
監督 ジョー・ライト