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ラストキング・オブ・スコットランド 

2008, 04. 10 (Thu) 18:30

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1971年、スコットランドの医学校を卒業したニコラス・ギャリガン(ジェームズ・マカヴォイ)は、
現状脱出を求めるかのように地球儀を回す。
指を差して止った国はウガンダ。

軍事クーデターによってオボテ政権が倒れ、
イギリスの支援を受けたイディ・アミン(フォレスト・ウィッテカー)が新大統領の座についた直後、
ニコラスはウガンダのムガンボ村にある診療所へとやって来た。
診療所の近くでアミンの演説を聞いたニコラスは、そのカリスマ性に強く惹きつけられる。
帰り道、捻挫したアミンを偶然治療したことから気に入られ、彼の主治医に抜擢された。

1998年に発表されたジャイルス・フォーデンによる同名小説を元にした作品。
アミンに仕えたスコットランド人の白人青年医師の視点から描かれる社会派サスペンス。
james_mcavoy3THE LAST KING OF SCOTLAND

残酷なシーンがあると、少し躊躇っているうちに終了してしまい、
レンタルもなかなか借りれずにいたけど、劇場へ行かなかった自分をひどく後悔した!!

ウガンダの政治背景の中、
軽いノリの若者が、気づいた時にはアミンの手中から抜け出せなくなっていた。
ニコラスに感情移入は出来ないけど、
彼の視点と共に極限状態まで体感するように引きずり込まれていくスリリングな展開。
lastking1THE LAST KING OF SCOTLAND33

医者としてアフリカに行くと言うのは、高い志で信念のある人物と思われるけど、
ニコラスは、軍事クーデターでアミンが新大統領に付いたことも知らない無知さでやって来て、
診療所までの移動バスで知り合った女性に、誘われるまま途中下車しアバンチュールを楽しむ。
診療所のデヴィッド・メリット医師の妻サラ(ジリアン・アンダーソン)には、
「この仕事を選ぶタイプではない」と指摘される。
そんな彼女と一線を越えようと安易な態度を見せるなど、
医者としての技術も腕も優秀であるが、人間としては好奇心と甘さが溢れている若者。
forest_whitaker6THE LAST KING OF SCOTLAND

医師による治療よりも呪術を選ぶ村の人々の診療にあたるが、
首都カンパラの恵まれた医療病院で、大統領家族の主治医として招かれる。
一端、迷いは見せるものの、アミンの要望に応え贅沢な暮らしまでも与えられそこに身を投じる。
しかも医療の面だけではなく、政治や個人的なアドバイザーとしても信頼されると、
己の甘さの上塗りで、結果権力に溺れていってしまうことに…
lastking2THE LAST KING OF SCOTLAND

アミン大統領は、偶然治療してくれたニコラスの(医療行為だけでなく)てきぱきとした対応と、
スコットランド人だと知り彼の着ていたTシャツを、息子のプレゼントにしたいと交換する。
そしてニコラスを大統領主治医として招く。
forest_whitaker5THE LAST KING OF SCOTLAND

前半のアミンはニコラスの目に映ったように気前のいいお茶目な人物で、国民からの人気もあり理想に燃えるカリスマ性のある魅力的な人物。
だがアミンは次第に変わり始める(変わったのか、隠していたものが剥がれるのか…)
暮らしやすい社会に変えようと燃えていたアミンだろうが、安定しない国内情勢で暗殺されそうになったり、
政策が上手く運ばなかったりと猜疑心に苛まれ、側近にさえも疑いの目を持ち信頼を失くしていく。
その猜疑心は憎しみにまで発展し、見せしめ行為など大規模な粛清をはじめる。
ムガンボ村で善良な表情で汗ばみながら演説していた彼は、次第に独裁者の危険な汗にまみれていく迫力は凄まじい!

お気楽青年ニコラスは、
中盤あたりから未熟な精神であるアミンの凶暴性や狂気に異変を感じ始める。
が、時既に遅く、そこからまたニコラスは自暴自棄になりとんでもない行動に走る。
彼の更なる軽率な行動は、終盤、絶望に変わりクライマックスへ。
lastking5THE LAST KING OF SCOTLAND

この映画は、ウガンダの歴史と独裁者アミンを物語るのではなく、
一人の未熟なヨーロッパ人若者の目から見たアフリカであり、そこにある奥深い人間の本質ドラマだった。
事実に基づいているそうだが、
スコットランド人の医師など、何人かの実在の人物をモデルにしたフィクションでもあり、史実とのバランスが見事に嵌っていると思った。
特にラスト、現実に発生したハイジャック事件をモチーフにして展開するプロットは圧巻!
lastking6THE LAST KING OF SCOTLAND

アカデミー賞など数々の主演男優賞を獲得したフォレスト・ウィッテカーの大統領は素晴らしかった。
「パニック・ルーム」でのウィッテカーは、強盗に入るが主人公と娘を助けた男であり、
「フォーン・ブース」では、犠牲者を出さないため必死に説得する刑事。
最近の「バンテージ・ポイント」でも、やはり正義感の強い優しい男といつも善良なイメージが強い。
そんな彼が演じる独裁者は、どこかダーティな部分は感じるが、人懐っこい表情や接し方に惹きつけられる力強さがある。
まさにウィテカーらしい善良な人物だったが、
これが一転、時に激しく、時に何事もないかのように静かにじわじわと、周りの人間をニコラスを追い込んでいく。
二面性のあるカリスマな狂気を、見事に演じ切った彼の鬼気な演技は必見!!
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物語上の主人公であるニコラスを演じたジェームズ・マカヴォイがまた素晴らしかった!!
「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」のタムナスさん役しか知らなかったので、まるでダークサイドに堕ちるかのようなシリアスな演技力にびっくり。
若気の至りと言えばそうだろうし、自業自得と言えばそれまでだけど…
世間知らずで愚かで傲慢である青年が、漠然とウガンダへやって来て地獄へと導かれるように転落していく。
抜け出したいが抜け出せないと悟った時、
苦しみながらもますます嵌り込んでしまう演技は絶妙で、観ていると息苦しくなってくる。

題材としては苦手な方も多いとは思うけど、
残虐な描写は数枚の写真と、ほんの一瞬、これは何だったのだろう?(巻き戻しして確かめた)ぐらいなので、観ていて心地好い訳ではありませんが、
作品も役者さんも一級品の映画だと思うので、見応えはあると思います。

独立後も相変わらずイギリスの干渉が続いていたウガンダ。
アミン大統領にとんとん拍子に受け入れられたニコラスは、大統領の憧れの地であるスコットランドの出身で、イギリスによって似たような関係におかれた国であったのと、お互いの幼稚さに共鳴した(似たもの同士)ような印象も。
“The Last King of Scotland”は、実際のアミンの発言に由来しているそうで、
植民地だった国ウガンダとイギリスの関係を、スコットランドとイングランドの関係に置き換えて対等に語ったようです。
forest_whitaker1THE LAST KING OF SCOTLAND

人は確実な事より、漠然としたものに導かれていくものなのでしょうか。
ニコラスがウガンダに来たのも、漠然としているし、
村人が医師より祈祷師を選ぶのも、漠然としたものに依存しているだけのように感じます。
そしてアミンも、権力の元でいくらでも確実性を知ることができるのにそれを選ばない。
人はそんな何か漠然とした強い力や、それがカリスマ性であったりと感じる何かへと憧れのようなものがあるのでしょうか。

脚本家のピーター・モーガンは、
昨年のアカデミー賞で主演女優賞を獲得した「クィーン」
主演男優賞を獲得した「ラストキング・オブ・スコットランド」
どちらにも参加されてる凄い方なんですね。
とても見応えのある映画でした。
観にいってたら、去年の自分のベストに確実にランキングしていました~惜しいことをした!!(泣)

2007年 3/10公開  アメリカ/イギリス
監督  ケヴィン・マクドナルド